弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

納税義務の成立について

    中小企業法務研究会  税務訴訟部会  弁護士  室田  朋宏 (2014.12)

納税義務はどのような場合に誰に対して発生するのでしょうか。本稿では納税義務がどのように成立するのか、その基礎理論を解説していきたいと思います。
    まず、納税義務が成立するためには一定の法律要件(納税義務の成立要件)を満たす必要があります。その要件を満たさない場合、納税義務は成立しません。この納税義務の成立要件のことを課税要件といいます。納税義務は税法の定める課税要件が充足されることによって法律上当然に成立すると考えられています。
   課税要件としては、通常、納税義務者・課税物件・課税物件の帰属・課税標準及び税率の5つがあげられます。以下ではこれらの要件を概説します。

(1)  納税義務者

納税義務者とは、租税法律の規定により租税を納付する義務(納税義務。租税債務ともいう)を負担する者のことをいいます。自然人・法人のみならず、権利能力なき社団・財団も納税義務者とされる場合があります(国税通則法3条、法人税法3条等)。
   なお、納税義務者は、経済的に租税を負担する担税者とは必ずしも一致しません。たとえば、消費税・酒税等の間接消費税の場合は、事業者、製造業者等が納税義務者とされていますが、担税者は消費者となります。

(2)  課税物件

課税物件とは、課税の対象とされる物・行為又は事実のことをいいます。
   所得を課税物件とする租税としては、所得税(所得税法7条)、法人税(法人税法5条)、住民税(地方税法23条1項2号等)が挙げられます。
   財産を課税物件とする租税として相続税・贈与税が挙げられます。
   消費を課税物件とする租税としては、直接的に課税物件とされる場合(直接消費税)と間接的に課税物件とされる場合(間接消費税)とがあります。直接消費税の例としてはゴルフ場利用税(地方税法75条)が挙げられ、間接消費税の例としては消費税(消費税法4条)や酒税(酒税法1条)が挙げられます。
   その他、登録免許税では登記・登録等が課税物件とされており、印紙税では課税文書の作成が課税物件とされています。

(3)  課税物件の帰属

納税義務は課税物件がある者に帰属することによって成立し、課税物件の帰属した者が納税義務者となります。この課税物件と納税義務者との結びつきを課税物件の帰属といいます。
   所得税法や法人税法では、課税物件である所得が誰に帰属するのかという問題については、実質所得者課税の原則が採用されています。資産または事業から生じる
   収益の帰属する者が法律上の単なる名義人であって、この者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益はこれを享受する者に帰属すると考えられています(所得税法12条、法人税法11条)。
   これに対して、固定資産税では、課税物件である固定資産(土地・家屋等)はその形式的所有者である所有権等の登記名義人に属するものとして課税しています(地方税法343条2項)。

(4)  課税標準

課税標準とは、課税物件を金額または数量によって表現したもので税率適用の基礎となる金額又は数量をいいます。
   課税物件を金額で表現する租税を従価税(多くの租税がこれに該当する。)といいます。たとえば、所得税や法人税において課税物件は所得であり、課税標準は所得金額となります。
   これに対して、数量で表現する租税を従量税といいます。たとえば酒税においては酒類の移出量が課税標準となります(酒税法22条)。

(5)  税率

税額を算出するために課税標準に対して適用される比率を税率といいます。
   税率は、従価税では百分率、従量税では課税標準1単位(たとえば酒税・1キロリットル)当たりの金額で表されます。
   金額ないし価格を基準とする場合には、比例税率と累進税率の別があります。比例税率は課税標準の大きさに関係なくその一定の割合である税率です(固定資産税・消費税等)。
   累進税率は金額ないし価格の増加に応じて累進して定められる税率をいいます(所得税相続税等)。