弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

もしもの場合に備えて

 〜認知症など判断能力の衰えから生じる財産逸失の回避

  中小企業法務研究会 後見事業部会 弁護士 平岡 健太郎 (2014.02)

現在わが国では高齢者の方の占める割合が多くなっています。そして、その高齢者の方みなさんが、多かれ少なかれ「自分にもしものことがあった場合」のことを考えていらっしゃることと思います。 例えば、病気やけがの場合の出費に備えて保険に入っておくことは、ほとんどの方が行われていますし、亡くなった場合の財産の処理に備えて遺言書を作成しておくことも、今日では珍しいことではなくなってきました。

しかし、このような病気やけが、死亡のほかにも、備えるべき「もしものこと」があります。それが認知症に代表される「判断能力の衰え」です。 昨年の厚生労働省の発表によれば、平成22年時点での65歳以上の高齢者のうち、認知症を患われている方の占める推定値は15%、人数にすると約439万人であり、認知機能が正常でもなく認知症でもない中間状態の方(MCI)の占める推定値は13%、人数にすると約380万人であるとのことで、この数値から、認知症リスクが決して他人事とはいえないほど高いものであることが分かります。

認知症などを患い、判断能力が衰え、不十分な状態になると、判断能力が十分なころから考えると信じられないような浪費をしてしまったり、振り込め詐欺や悪質商法などの被害者になるリスクも増します。また、判断能力が不十分であることに乗じて、親類や友人、ご近所さんなど近しい存在の人から、貸金の依頼や投資話などを持ちかけら れ、実質的な被害が生じている事例も多数存在しています。

このように、判断能力が不十分な状態になると、これまで築き上げてきた預貯金や不動産などの財産を失ってしまうなど、その方の権利が脅かされる危険が高まるのですが、このような場合に備えて何らかの対策をとられている方はまだまだごく少数であるのが現状です。

そこで、今後、認知症などにより判断能力が不十分になった場合に利用できる制度や判断能力が不十分となる場合に備えるための制度について、そのメリットやデメリット、各制度間の関係なども含めて順番にご紹介とご説明を差し上げ、特に判断能力が不十分になる前からいわば「保険」のような役割を果たすことのできる任意後見制度については詳細にお話させていただく予定です。

《ご紹介予定の制度》

  1. 法定後見制度
  2. 後見制度支援信託
  3. 任意後見制度
  4. 財産管理委任契約
  5. 日常生活自立支援事業