弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

損益通算廃止の遡及適用を合憲とした最高裁判決

 〜租税法律主義の適用と判断基準

  中小企業法務研究会 税務訴訟部会 弁護士 室田 朋宏 (2014.02)

1 H23.9.22(最判@)・H23.9.30(最判A)のポイント
 @期間税についても、遡及適用禁止の趣旨が適用される
 A本件改正附則(暦年初日への遡及)は、憲法84条の趣旨に反しない


・事案 H16.3.26成立・H16.3.31公布・H16.4.1施行の措置法において、土地または建物の譲渡について、長期譲渡所得の金額の計算上損失の金額を他の所得の金額から控除する損益通算が認められなくなり、同規定は、H16.1.1以後に行う譲渡についても適用されることとなった(同改正附則)。 最判@ではH16.1.30に売買契約を締結、H16.3.1に引渡し、最判AではH15.12.に売買契約を締結、H16.2.26に引渡して代金を受領した。

・判断 所得税は、期間税で暦年の終了時に成立するので(期間税)、所得税の納税義務自体が事後的に変更されることにはならないが、憲法84条(租税法律主義)の規定は、課税関係における法的安定が保たれる趣旨を含む。 遡及適用の憲法適合性は、当該財産権の性質、その内容を変更する程度、及びこれを変更することによって保護される公益の性質などの諸事情を総合考慮し、変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかによって判断すべき(S53.7.12最判)。 期間税についても同様に解すべき。本件では、適性な租税負担の要請と不動産価格の下落の進行に歯止めをかける立法目的があり、駆込売却の防止を図る公益上の要請があった。変更の対象は、納税義務そのものではなく、損益通算により租税負担の軽減を図る ことを納税者が期待しうる地位にとどまるうえ、施行日前の適用期間も3ヶ月に限られる。これらを総合的に勘案すると、納税者の租税法上の地位に対する合理的な制約として容認される。

  • ・変更の程度・公益の性質等により、遡及適用があり得ること
  • ・施行前も税制改正大網の内容・新聞報道等に留意する必要があります。


本件改正附則は、H15.12.17の平成16年税制改正大網でその内容が取りまとめられ、翌日に新聞報道されていたこと等も影響していると考えられます。 実務対応としては、@遡及適用があり得ることを認識し、特にA税制改正大網の内容を速やかに検討し、施行前でも遡及の可能性を認識することが必要と言えます。