年次有給休暇
〜退職予定者が有給休暇を全部消化していいか?
中小企業法務研究会 労働部会 弁護士 木山 生都美 (2014.03)
Q. 従業員Bは、A社を退職するにあたり、去年と今年あわせて使っていない年次有給休暇15日
を全て消化しようと考え、A社に申請しました。
ところが、Bが申請した時期は、A社の繁忙期であり、A社は、こんな忙しい時期に15日も休暇を取られると困る、休暇は10日しか認めないと主張しています。Bは、退職するにあたり、有給休暇を全部消化することはできるのでしょうか?
ア 年次有給休暇とは
使用者は、その雇入れの日から起算して@6ヶ月以上継続勤務し、その間のA全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10日の有給休暇を付与しなければならないとされています(労働基準法39条1項)。
労働者の年次有給休暇権は、@Aを満たすことにより当然に発生するのです。なお、6ヶ月継続勤務した後は、継続勤務年数1年ごとに、一定日数が休暇日数に加算されます(労働基準法39条2項)。
イ 労働者による年休の時季の指定
労働者は、取得した年休について、具体的な時季を指定できる時季指定権を有しています。
従って、労働者が具体的な月日を指定した場合には、使用者は、時季変更権による場合を除き、労働者の希望した日に有給を付与する必要があります。
ウ 使用者による有給休暇の時季の変更
使用者は、年休をとる時季について、事業の正常な運営を妨げる場合、時季を変えてくれという権利があります。つまり、その日は忙しいから別の日に有給をとってくださいということができるのです。これを時季変更権といいます(労働基準法39条5項)。
エ 退職時の年次有給休暇の取得
ところで、在籍中は忙しいので、退職時にまとめて取得するという例がよくみられますが、この際、使用者は、時季変更権を行使することができません。なぜなら時季変更権は、あくまで他の時期に休暇を与えることが前提となっていますが、退職する人には、他の時期に休暇を与えることができないためです。
オ 本件事例
従って、A社が繁忙期であるため、Bによる年次有給休暇の取得がA社の事業の正常な運営を妨げることになるとしても、A社は時季変更権を行使することはできないのです。そのため、本件では、A社はBが請求するだけの日数の年次有給休暇を与えざるを得ないということになります。
しかしながら、このような状況は、特に中小企業の使用者にとっては、非常に望ましくない事態を引き起こしかねません。そこで使用者としては、普段から労働者が年次有給休暇を取得しやすい環境を整えておき、労働者が退職直前にまとめて取得するような状況を回避すべきです。
具体的には、労働者が年休を取得しない理由は、同僚・上司や職場の雰囲気等によることが大きいといわれていますので、使用者が積極的に有給休暇の計画的付与を行うことが効果的です。
例えば、職場で一斉にまたは交替で年休を計画的に消化したり、事業活動の閑散期や夏季休暇として付与日を事前に特定したりすることが考えられます。この場合、労使ともに、この休暇を見越して行動できますし、従業員としては気兼ねなく取得でき、未消化年休が生じにくくなるでしょう。