競業避止義務
〜競業避止義務を認めうる要件、競業避止義務違反に対する措置等
中小企業法務研究会 士業部会 労働部会 弁護士 木山 生都美(2014.08)
1 在職中の競業避止義務
労働者には、労働契約の存続中、信義則または誠実義務から、当然に、同業で稼業を差し控える競業避止義務があります。従って、就業規則に規定しておけば、懲戒処分等がなされ得ます。
なお、所定時間外は労働者の自由時間なので、在職中の兼業は競業とは異なり、業務に具体的かつ相当に支障が生じない限り禁止できません。禁止する規定は無効です。
2 退職後の競業避止義務
しかし、退職労働者に競業避止義務を課すことは、職業選択の自由(憲法22条)を侵害するおそれが極めて強いため、制限的に解されています。判例においては、退職後については、原則競業避止義務を否定しつつ、一定の要件を満たせば認めています。
その一般的な要件は次のとおりです。
(1)契約上の根拠の存在
契約書や就業規則など明確に事前取り決めがなされていることが必要です。
(2)特約内容の合理性
上記取り決めが存在している場合でも、その取り決め内容が合理的でなければ特約は無効とされるか、合理的な範囲に限定解釈されます。
この合理性については、「使用者の正当な利益の保護を目的とすること、労働者の退職前の地位、競業が禁止されている業務、期間、地域の範囲、使用者による代償措置の有無等の諸事情」(トーレラザールコミュニケーションズ事件、東京地裁平成16年9月22日決定)を総合的に考慮し、従業員の職業選択の自由と使用者の営業の自由の調整を図る観点から、判断されています。
なお、競業避止義務の有効性に関しては、競業が禁止される期間が問題となることがよくあります。
これについては、1年以内の期間であれば有効と判断されやすいですが、2年以上となってくると、他の事情との総合考慮により、無効と判断されることもあります。そして5年以上の長期間の場合には、それだけで無効と判断されやすいといえます。
3 競業義務違反に対する措置
(1)退職金の減額・不支給
前回やりましたが、判例においては、退職金は賃金の後払的性格を有するため、就業規則の規定があったとしても、退職金を不支給とするには相当の合理的な理由が必要であり、特に退職金全額を不支給とするには、「当該従業員の永年の勤続の功労を全て抹消してしまうほどの著しい不信行為があった場合」に限られると解されています。
そして、同業他社に就職したときは、退職金を半額とする旨の就業規則がある場合に、その効力を認め、退職金は半額の限度においてしか発生しなかったとする判例があります(三晃社事件、最高裁昭和52年8月9日判決)。このように、競業避止義務違反がある場合、退職金の減額・不支給とすることが考えられます。
(2)損害賠償請求・差止請求
競業避止義務違反は債務不履行又は不法行為を構成するとして、損害賠償や差止請求が認められることがあります。
(3)期日の非公開
労働審判手続は公開されません。ただし、労働審判委員会は、相当と認められる者の傍聴を許すことができます(労審法16条)。
4 使用者側の留意点
使用者側が競業を制限するために、留意しておくべきこととしては、次のことが考えられるでしょう。
- (1)就業規則に、退職後を含めた競業避止義務を規定。
- (2)就業規則に、競業避止義務違反に対しては、退職金を支払わないことや、退職後の一定期間に競業会社への転職が判明した場合には退職金の返還義務のあることを規定。
- (3)入社時に、個別的に、競業避止義務について合理的内容の特約を締結。
- (4)退職時に、個別的に、競業避止義務について合理的内容の特約を締結。