弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

債権回収を考える

  6  保証債務の弁済と主たる債務の消滅時効の中断
     (平成25年9月13日民集67巻6号1356頁)

     中小企業法務研究会  債権回収部会  弁護士  吉開  雅宏 (2014.08)

事 例: Xは、Aに対し、平成15年4月1日、1000万円を貸し付けた。その際Aの子Yは、Xとの間で連帯保証契約を締結した。その後、Aが平成20年4月1日死亡したので、Yが単独相続した。そして、Yは、平成23年4月1日に 相続財産を用いて合計500万円の弁済をした。なお、XがYに交付した領収書には、「連帯保証人Y」と表示され、XからYへの平成26年2月1日付催告書には「主債務者A」と表示されていた。
   Xは、平成26年4月1日、連帯保証債務の履行を求めて訴訟を提起した。Yは、主債務たる貸金債務は消滅時効により消滅したとして連帯保証人としてこれを援用した。

1.争点

連帯保証人が、主たる債務を相続してから連帯保証債務の一部を弁済した後、主たる債務について時効期間が経過した場合、主たる債務者兼連帯保証人は、主たる債務の消滅時効を援用できるかが問題となります。

2.主たる債務者の地位と相続

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。ただし、被相続人の一身に専属したものは、相続人に承継されません(民法896条ただし書)。一身専属権とは、個人の人格・才能や個人としての法的地位と密接不可分の関係にあるために、他人による権利行使・義務の履行を認めるのが不適当な権利義務をいいます。
   主たる債務者の地位は、一身専属権には該当しないので、相続の対象となります。なお、保証人の地位も相続の対象となります。もっとも、身元保証人の地位は、判例上、相続性を否定しております。

3.保証債務の付従性

保証債務は、主たる債務を担保することを目的とします。そのため、以下のような性質を有します。

  • (1)   成立の付従性

    保証債務は、主たる債務が契約の無効等により不成立であれば、成立しません。

  • (2)   消滅の付従性

    主たる債務が、弁済等により消滅すれば、保証債務も消滅します。

  • (3)   内容の付従性

    保証債務は、その範囲及び態様が主たる債務より重いことは許されません。
          (民法448条参照)

  • (4)   付従性に基づく抗弁権

    保証人は、主たる債務者が有する抗弁権を行使することができます。

  • 4.消滅時効と保証債務

    民法145条の「当事者」には、主たる債務が時効によって消滅した場合の保証人を包含するので、保証人は主債務の時効を援用することができます(大判昭和8年10月13日)。ただし、主たる債務に対する時効の中断は、保証人に対しても、その効力が生じます(民法457条1項)。他方、保証人に対する時効の中断は、主たる債務者に影響を及ぼしません(大判昭5年9月17日)。この場合、保証債務の時効は中断するが、主債務の時効完成後に保証人は主債務の消滅時効を援用することができます(大判昭10年10月15日)。もっとも、連帯保証人に対する請求は、主たる債務者にも効力が及ぶので注意が必要となります。

    5.平成25年9月13日民集67巻6号1356頁

    「主たる債務を相続した保証人は、従前の保証人としての地位に併せて、包括的に承継した主たる債務者としての地位をも兼ねるものであるから、相続した主たる債務について債務者としてその承認をし得る立場にある。そして、保証債務の附従性に照らすと、保証債務の弁済は、通常、主たる債務が消滅せずに存在していることを当然の前提とするものである。しかも、債務の弁済が、債務の承認を表示するものにほかならないことからすれば、主たる債務者兼保証人の地位にある者が主たる債務を相続したことを知りながらした弁済は、これが保証債務の弁済であっても、債権者に対し、併せて負担している主たる債務の承認を表示することを包含するものといえる。これは、主たる債務者兼保証人の地位にある個人が、主たる債務者としての地位と保証人としての地位により異なる行動をすることは、想定し難いからである。
       したがって、保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合、当該弁済は、特段の事情のない限り、主たる債務者による承認として当該主たる債務の消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当である。」