徴収権の消滅時効について
中小企業法務研究会 税務訴訟部会 弁護士 室田 朋宏 (2015.04)
1 意義
時効は一定の事実状態が長期間にわたって継続した場合に、それが真実の権利関係に合致しているかどうかを問わずにその事実状態をそのまま権利関係として認める制度です。
現行税法は納税義務の消滅時効については明文の定めを置いておらず、徴収権の消滅時効について定めています(国税通則法72条、73条 地方税法18条1項)。
徴収権は、租税の「徴収を目的とする」国または地方団体の「権利」であると定められています(国税通則法72条1項 地方税法18条1項)。その内容としては、成立した納税義務の履行を請求し、納付すべき税額を受け取る権利を意味し、基本的には私法上の金銭債権と同じであると考えられています。
2 時効の期間
国税通則法および地方税法は、ともに租税の徴収権は、原則として法定納期限から5年間行使しないことによって時効により消滅する旨を定めています(国税通則法72条1項、地方税法18条1項)。法定納期限とは各租税法律が一般的に定める本来の納期限のことをいいます(国税通則法2条8号参照)。時効の起算日は法定納期限の翌日とされています。
国税通則法等が、納税義務が確定しているかどうかを問わずに一律に法定納期限をもって徴収権の消滅時効の起算日としたのは、法定納期限を過ぎれば、国または地方団体は未確定の納税義務についてもその内容を確定する処分をしたうえで督促および滞納処分をすることができることが重視されているためであると考えられています。
3 時効の効果
徴収権の消滅時効は、民法の規定(民法145条・146条)と異なり、納税義務者の援用を必要とせず、またその利益を放棄することもできず、絶対的に消滅します(国税通則法72条2項 地方税法18条2項)。 これは、租税法律関係の統一的画一的処理の要請に基づくものであると考えられています。
4 時効の中断
時効の中断は、時効の基礎となる権利不行使の事実状態と相容れない一定の事由が生じた場合にそれまでの時効期間の経過を全く無意味にして時効の完成を阻止するものです。
国税通則法等は、更正または決定、各種加算税にかかる賦課決定、納税に関する告知、督促、交付要求を納税義務の消滅時効の中断理由としています。
租税債権の時効については民法の規定が準用されるため、徴収権の消滅時効は民法所定の時効中断理由によっても中断されます。ただし、民法所定の中断理由が徴収権にそのまま準用されると解するべきかについては見解の相違があるところです。