弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

契約書を考える

  1  期限の利益喪失条項

     中小企業法務研究会  債権回収部会  弁護士  吉開  雅宏 (2015.04)

1 期限の利益

期限の利益とは、期限が付されることによって当事者が受ける利益のことをいいます。 具体的には、X(債務者)がY(債権者)から1年後に返済するという約束のもと年利を10パーセントと設定し、100万円を借り受けるという場合、X(債務者)は1年後の期限到来まで100万円を返済する必要はなく、 返済を猶予されるという利益を有します。他方、Y(債権者)は、期限の到来を待つことによって、10パーセントの利息を受け取ることができるという利益を有します。

2 期限の利益の喪失

期限の利益を喪失とは、一定の事由が発生したときに、上記のような期限の利益を失ってしまうことをいいます。民法137条は、期限の利益が喪失する場合として3つの場合を規定しております。 しかし、民法が規定する3つの場合だけでは、債権回収をしなければならないような不測の事態に相手方が陥っている場合、対応が遅れてしまいます。そこで、契約締結の際、 当事者間において、民法が規定する以外の条項であっても期限の利益を喪失させることになるという条項を設けておく必要があります。

なお、期限の利益喪失条項の定め方には2通りあります。1つは、所定の事由が生じると当然に期限の利益が喪失するという当然喪失条項。2つめは、所定の事由が生じ、相手方から請求があった場合に期限の利益が喪失するという請求喪失条項です。いずれの条項を用いるかは、契約内容、当事者の意向によって異なってきます。

3 期限の利益を喪失させることのメリット

債権者は、期限の利益を喪失させることができれば、債務者に対し、直ちに債務の全額を請求することができるようになります。 それに伴い、担保を取得している場合には担保権を実行できるようになります。また、債務者に対して債務を負担している場合には、当該債務と相殺することも可能になります。
   このように期限の利益を喪失させることによって、多くのメリットが生じますので、契約書を作成する場合、期限の利益喪失条項が債権回収を考えるうえでいかに重要かがわかります。

4 具体的な契約条項

契約書に期限の利益喪失条項を盛り込む場合、具体的には以下のような文言が考えられます。

  • (1)   乙(買主)が、次の各号のいずれかに該当する場合、乙は当然に期限の利益を喪失し、甲(売主)は、乙に対し、直ちに売買代金を一括して請求することができる。
  • (2)   乙(債務者)が債務の支払いを怠り、その額が金○○万円に達したときは、乙は当然に期限の利益を失い、残額を一括して支払わなければならない。

もっとも、上記記載例が全ての契約に当てはまるというわけではありません。契約内容や当事者間の意向によって、その内容は変わるべきものですので、契約書作成の際には専門家による作成、確認が重要でとなってきます。