契約書を考える
2 公正証書
中小企業法務研究会 債権回収部会 弁護士 吉開 雅宏 (2015.04)
1 公正証書
公正証書とは、法務大臣が任命する公証人(裁判官、検察官などを長年務めた人物から選ばれる。)が法律に従って作成する公文書のことをいいます。
公正証書には、遺言に関する公正証書、賃貸借契約・売買契約・金銭消費貸借契約等の契約に関する公正証書、離婚に伴う慰謝料・養育費の支払に関する公正証書などがあります。
また、任意後見契約のように公正証書を作成しなければならないような契約もあります。
2 強制執行認諾条項付公正証書
公正証書を作成すると、原則として20年間(ただし、履行期限や確定期限あるものは、その期限後10年間)、証書の原本が保管されます(公証人法施行規則27条1項1号)。そのため、仮に公正証書を紛失しても再発行をしてもらえますし、盗難、偽造の虞はほとんどありません。
公正証書作成のメリットは上記のほかに、訴訟を経由せず、公正証書を用いて強制執行をすることができるという点にあります。なお、強制執行をするためには、そのための申立てを裁判所にする必要はあります。
公正証書を用いて強制執行をするためには、まず、契約条項の中に、「債務者は債務の履行を怠った場合に強制執行を受けても異議がないことを認諾する」というような条項を設けておく必要があります。この文言がなければ、たとえ公正証書で契約書を作成していても、公正証書を用いて強制執行をすることはできず、訴訟を提起する必要性があります。
また、実際に公正証書を用いて強制執行をする場合には、強制執行認諾文言が入っている公正証書だけでは足りず、公証人役場に「執行文付与の申立て」を行い、公正証書正本の末尾などに,「債権者は,債務者に対し,この公正証書によって強制執行をすることができる。」という「執行文」が付与されている必要性があります。
3 強制執行ができない場合
強制執行認諾条項付公正証書によって強制執行できるのは、「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」に限られています(民事執行法22条)。そのため、以下のような場合には、強制執行をすることはできません。
- @ 不動産の明渡し
- A 公正証書作成後に債権額が増減したとき
もっとも、裁判において建物の明渡しを求める場合、公正証書は裁判において重要な証拠の一つになるので、公正証書に全く意味がないというわけではありません。
4 おわりに
このように公正証書を作成した場合メリットが多いわけですが、そもそも相手方が公正証書で契約書を作成することに同意していなければなりません。また、公正証書を作成するには手数料がかかり、その金額は、契約や法律行為に係る証書作成の場合、原則として、その目的価額により定められています(公証人手数料令9条)。
公正証書の作成に不明な点がある場合には、弁護士等の専門家や公証役場に相談に行きましょう。